わからない
闇落ちif私は、何のために術師をやっているのか。
それがわからない。何も理由がないと、やがて疑問、疑念、裏切りの発想が生まれる。
こちら側にいる意味が無いのなら、あちら側でも変わらないのではないだろうかと。
実際はそんなことは無い。少し考えればわかることだろう。
あちら側に行けばこちら側には戻れないし、あちら側とこちら側がわかりあうのは難しいことだ。
だが、変わらないのでは無いかと、一瞬でも強くそう思ってしまったこと、徹夜続き、友人も碌にいない、人と話すこともあまりない生活を送っていること、気持ちを汲み取って止めてくれる奴なんて居ないことが重なり、気持ちは傾き始めていた。
しょうがない。元々そこまで頭が良いわけでは......いや、まぁそこそこの頭脳はあるか。
でも、頭がまぁそこそこあったとしてもその頭がやられてしまったら意味は無い。
徹夜続きによる過労と睡眠不足、糖分の不足による脳の働きの低下、それによる思考力の大幅な低下と判断力の消失もありこいつの頭は今ちょっと可哀想なことになっていた。
「あっちいったら、ともだちできるかな。」
そう!こいつは友達が欲しいのである!
幼少はちょっと初手の術式発動があれだったこともあり家から出られず!
小学生中期になる頃には家から出られたけど家族以外とまともに対話したことが無いせいで普通の距離の詰め方が分からず人に引かれまくり!
中学校ではなんか時折変な動作をするとか宙を見るとかで厨二病だな......と三年間ずーっと必要最低限のことしか伝えられず避けられ!
高専に入る頃には話しかけられたら話す、話し過ぎない、必要最低限のことだけ......とかそんな思考が出来上がってしまっていたし、その上同期が居なかったせいで高専でも友達が出来ず!
それに加えて、今日でもう高専は卒業!
「高専行ったら友達できるっていっだじゃん゛ん......母上のう゛そづきぃ......」
ぐずぐずと、涙をポロポロ床にこぼしながら泣き、母への愚痴を小声で呟く。
母に直接言ったりはしない。小さいし、見た目は可愛いものだがその裏は、倫理観が無いから何をするかなんてわかったものではないような、そんな、おかしな人だから。
すーと息を吸い、はぁと息を吐き落ち着く。
「すー、はぁ......今日でここにかようのもおしまいか。おともだち、できなかったな。」
学校へ向かう足取りが重い。どうせ裏切るのだったら、あちら側に行くのだったら、卒業なんてしなくても良いのでは無いだろうか。
「そもそも、卒業式とか無いし、区切りとして最後は学校に行くかってだけだしなぁ。」
あ、そうだと口を開ける。言ってはいけない、思ってはいけない、やってはいけないことをやろうと、それを口にしようとしている。
それに背徳感を覚えてしまうので、もう色々と終わってしまっていたんだと思う。
「誰か一人、普通の子とか殺して玄関に吊り上げてみよっかな。」
思いついてしまってから、それを口にしてしまってからの行動は早かった。
「ふふ、二人になっちゃった。人って油断してたらこんな簡単に捕まえれるんだ!」
う、あ、とか言っている小さな子と、やだやだやだ!とか言っている大きな子を縄で引きずりながら満面の笑みで話しだす。
小さな子がひゅっと声をあげ、大きな子は泣き出してしまった。
「あーもう、大きいんだから泣かないの!」
めっ!とでも言うような調子で大きな子の口に捕まえるのを失敗して千切れちゃった子の腕を入れる。
あ゛、や゛だ。と言われたが、煩くする方が悪いと思う。しょうがないよね。
......「友達の腕食べれて羨ましいね。」
目の前の子がおかしいよ。と言う。
「なにが?わたしはふつうだよ。そう、他が全部おかしいの。」
そう、君が、皆がおかしいから……だから。と、戯言を吐く。
学校に戻る。人が居ないことを確認する。
縄を首にかけ直し、そこら辺に吊るしておく。もう死んでるから苦しくは無いだろう。
「さてと......帰るか。あれ、どこに?」
そう悩んでいると、人影がミえた。みえてしまった。ばれてしまう。にげなくては。
はしって、ハシって、走って、いつの間にか朝に泣いていた場所に戻ってきていた。
「いえ、だ......」
自分の部屋に戻り、疲れが限界に達したのか、それともいつもと変わらない部屋の光景に安心したのか、床に倒れ込むように眠った。
次に起きた時にはきっと、全てバレているんだろう。
もっと、もっと遠くに逃げた方が良いとは思いつつも、眠気には勝てずに眠ってしまった。
起きる。頭がぼんやりしている。私は何で床で寝ているんだろう。私は何故、千切れた胴体を、持っているんだろう。
「はっ、なん……ひっ」
胴体ががたりと動いた気がして投げ飛ばす。恐怖に震える。
自分は何故生きているのか、これは誰の胴体なのか。
なにもわからない。昨日、一昨日、いや……数日前までの記憶が曖昧だ。
なにがおきたのかがわからない。
「そうだ、メモ、メモを探そう。」
ガタッと勢いよく立ち上がり、千切れた胴体に背を向ける。
机の上がとても汚い……掃除も出来ないような状況だったのだろうか。
がさりと沢山の紙に手をつっこむ。この大量の紙は全てメモみたいだ。
「最近はちゃんとメモ帳に書いてたんだけどな……紙はまとめるの面倒だよ。」
トントン、と紙を整えてながら昨日から数日前までのメモを探す。
「あ、これ一昨日の。ってことはここら辺に色々あるかな。」
一昨日の紙には術師って凄いね。私何も出来なかったよ。と書いてあった。
「私も一応術師なんだよなぁ……これは、昨日のとか一昨日の見つけても疲れて変なこと書いてそうだなぁ。あ、一昨日の。」
こっちってなんだろう。あっちって?なにか違うのかな。友達が欲しい。と書いてあった。
「こっち、あっち?何だろう……友達欲しいはわかる!!あ、これ昨日の……うわ、ぐっちゃぐちゃ。何が書いてあるか読みにくいな……」
えっと、と言いながら頑張ってぐちゃぐちゃな文字を読み解く。
「しょうがない。友達居ないから。みんなおかしいからきっと。だからだ。私は幸せになれるはずだから。あの子達を助けるの。友達を切って、いなくする。助けてよ。ねぇ、私あっちに行くから。先生も一緒の子も友達じゃなかったから。」
「……?どういう、切る……?あ」
後ろを見て胴体に近づき、ペタペタと触る。
「したい、死体怖い……でも、これ、切られてるっぽい……?」
……メモ的に私が切ったのか?と考える。
「いやでも、私は殺しとかしない……出来ないタイプで……」
でも、じゃあこれは?そう考えていると、受話器が鳴る。
「……?誰だろう。」
番号を見ると……公衆電話からかけているっぽい?
「アヤシイ……」
電話番を見てアヤシイと言っていると、ドアがばんばんと叩かれる。
「誰ですか?え、あっなんで押し入って……」
勝手に入ってこられる。こいつは覚えてないが、昨日のことがあるから。
そりゃそうだ。犯人がバレないような工作は何もしていなかったし、家も変えてないんだから犯人がバレたらなし崩しに色々とバレてしまう。
そしたら、こうなることは予想出来ただろう。予想出来ていただろう。まぁ、忘れてしまっては意味が無いが。
入ってきた時、こいつは胴体を抱えているままだった。
そんな状態だったら当然詰め寄られ、質問をされることだろう。
沢山の人が居る。沢山の人が質問してくる。怖い。
「わからない……です」
混乱して窓から逃げようとしたら、足を滑らせ、打ちどころが悪くて死んでしまった。
これは、報復、呪いなのだろうか。
もしそうなら、誰からのものなのだろうか。
わかれない。理解出来ない。わからない。